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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)5239号 判決

原告 フランスベット株式会社

右代表者代表取締役 池田実

右訴訟代理人弁護士 岡村勲

右同 片岡寿

被告 プリマ株式会社

右代表者代表取締役 高橋貞次郎

右訴訟代理人弁護士 岡和男

主文

被告は原告に対し、一万一四一二円およびこれに対する昭和四二年五月二一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の主位的請求を棄却する。

被告は原告に対し、九〇万一三六〇円およびこれに対する昭和四〇年七月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、一および三項に限りかりに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

1、(主位的請求)被告は原告に対し、九五万九〇一〇円およびこれに対する昭和四二年五月二一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)被告は原告に対し、九〇万一三六〇円およびこれに対する昭和四〇年七月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

1、原告の請求をいづれも棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

(一)  原告はベッド、家具類の製造販売を業とする会社であり、被告は合成じゅうたんの製造販売を業とする会社である。

(二)  原告は訴外株式会社村為に対し、昭和三九年六月二四日から昭和四〇年三月一三日までの間に売渡したベッドその他付属品の売掛代金債権金一二〇万八一二三円を有していたところ、昭和四〇年五月一八日、訴外村為株式会社との間に、同訴外会社が右債務を重畳的に引受ける旨の契約を締結し、右契約につき同日、東京法務局所属公証人茂見義勝作成第一四三三号債務弁済契約公正証書の作成を経由した。

(三)  一方、村為株式会社は被告に対し、

1、昭和四〇年五月六日原告製のベッドおよびその付属品を代金四四万六二三八円、支払期日同年六月三〇日と定めて売渡し

2、次いで、同年六月三日右同種商品を代金五一万二七七二円、支払期日同年七月三一日と定めて売渡し

て、右代金合計九五万九〇一〇円の債権を取得した。

(四)  ところで、原告は、訴外村為株式会社が弁済期を過ぎても前期(二)項記載の債務の弁済をしないので、前記公正証書の執行ある正本に基づいて、昭和四二年五月一八日同会社の被告に対する前項の売掛代金債権合計九五万九〇一〇円の差押および取立命令の申請(横浜地方裁判所昭和四二年(ル)第五〇九号債権差押申請事件、同年(ヲ)第五二八号債権取立命令申請事件)をし、右申請のとおりの債権差押および取立命令を得、右命令は同年五月二〇日第三債務者である被告に送達された。

(五)  右により、被告は原告に対し、右取立債権の支払をする義務がある。

(六)  かりに、原告の右取立債権の請求権が認められないとすれば、次のとおり、原告は被告に対し、債権侵害の不法行為による損害賠償請求権を取得している。すなわち

1、原告は、訴外株式会社村為に対し、原告の製造にかかるベッド、家具類を継続販売し、昭和四〇年三月一三日現在においてその売掛代金債権が一二〇万八一二三円に達したところ、同会社が右代金の支払を遅滞し代金取立が困難な状態となったので、その後の取引を停止していた。

2、右のような状況において、原告は右会社および訴外村為株式会社の代表取締役である木村太一から、被告より注文を受けた原告製ベッドを納入できないと面子にもかかわるので是非売渡して貰いたい旨懇請を受けたが、前記のような事情を理由にこれを断った。しかし、同人が強く懇請するので、原告は、村為株式会社が原告に対して、原告が被告から右商品の売渡代金を代理受領し得る権利を与えることおよび株式会社村為の原告に対する前記債務を村為株式会社が引受けることを条件とするのであれば、村為株式会社に対して申出の商品を売渡してもよい旨答えたところ、右会社代表取締役木村は右条件を履行することを承諾し、原告に対し、右会社が被告に前記商品を売渡すことによって取得する代金債権を代理受領し得る権限を授与し、その旨記載した委任状を交付した。

3、そこで、原告会社横浜営業所長坂口龍彌が昭和四〇年五月六日被告方を訪れ、被告会社代表取締役に対し原告が株式会社村為に一二〇万円余の債権があるが回収できなくて困っていることおよび被告の注文にかかる商品を村為株式会社に売渡すについて同会社と前記内容の条件の取決めをしたことを話したうえ、被告が右商品売渡代金を原告に直接支払うことに同意してくれるのであれば、右会社に注文した右商品を被告に直接納入するようにする旨申入れたところ、被告会社代表取締役はこれを諒承し、請求原因(三)項の1記載の代金について同日、同項の2記載の代金について同年六月三日に、それぞれ、被告が代理受領権を有する原告に対し右代金の支払をすることに同意する旨記載した書面を原告に交付しその旨を約した。

4、原告は、被告が前記のとおり同意したことから、同年五月七日請求原因(三)項の1記載の商品を、次いで同年六月三日同項の2記載の商品を村為株式会社に売渡し、その商品を転売先たる被告に直接納入した。

5、ところが、被告は、右商品は村為株式会社から買受けたのでなく株式会社村為から買受けたものであり、然らずとするも、株式会社村為は村為株式会社と実質的に同一会社であるから、被告が昭和四〇年五月七日右代金の内金四万六二三八円を株式会社村為に支払い、残代金九一万二七七二円については同年七月二日被告が同会社に対し有していた九〇万一三六〇円の売掛代金債権と対等額で相殺したことにより、右商品の代金債務は現在一万一四一二円残存するに過ぎない旨主張し、原告の前記代理受領権にもとづく右商品代金の請求を拒絶するに至った。

6、ところで、被告は、原告が村為株式会社に対する売渡代金債権を担保する目的で同会社から前記商品代金の代理受領権限を授与されたものであり、被告が同会社ないし株式会社村為に直接右商品代金を支払うなどして右代金債権を消滅させるならば、原告の村為株式会社に対する右債権回収が不能となるであろうことを充分知悉しながら、前記相殺の意思表示をしたものであって、その違法なことが明らかである。従って、かりに、村為会社の被告に対する商品代金債権が被告主張のとおり相殺により消滅したため、原告の前記取立命令にもとづく右債権の取立請求が理由のないものとすれば、原告は、被告の右違法な相殺による債権侵害の不法行為により、右相殺により消滅するに至った同会社の債権額九〇万一三六〇円に相当する損害を受けたことになるというべきである。

なお、被告が原告から前記商品の納入を受けた当時既に株式会社村為に対し既に被告主張の売掛代金等の債権を有していたとすると、被告は株式会社村為に対する右債権の回収を図ることを企図し、代金支払いの意思もないのに原告に対し直接その支払いをするかのように偽り、原告をして支払能力のない村為株式会社に原告会社製品を売渡させてこれを被告に納入させ、自己の右債権の弁済に充当したものということができその不法行為は極めて計画的且つ悪質である。

従って、被告は原告に対し、原告の蒙った前記損害を賠償する義務あることが明らかである。

(七)  よって、原告は被告に対し、本件取立債権九五万九〇一〇円およびこれに対する前記取立命令送達の日の翌日の昭和四二年五月二一日から完済まで商法所定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に、前記損害金九〇万一三六〇円およびこれに対する被告の株式会社に対する前記相殺の意思表示が到達した日の翌日(昭和四〇年七月五日)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、被告の答弁および抗弁

(一)  請求原因(二)項は不知。

(二)  同(三)項は否認する。

もっとも、被告は、原告主張の各日に、原告主張の約定で、原告主張の商品をそれぞれ買受けたことがあるがその売主は訴外株式会社村為または株式会社村為こと訴外木村太一であって、原告主張の訴外村為株式会社ではない。

(三)  同(四)項中、原告主張の取立命令が原告主張の日に送達されたことは認めるが、被告は村為株式会社に対し右取立命令の目的となっている債務を負っていないから、右取立命令によって原告は債権の取立権を取得したことにはならないというべきである。

(四)  (仮定抗弁)かりに、株式会社村為と村為株式会社とが実質上同一人格のものとしても、右取立命令のあった当時、同会社の被告に対する原告主張の代金債権のうち九四万七五九八円は、次のとおり弁済および相殺により既に消滅していた。すなわち、

1、被告は株式会社村為に対し、昭和四〇年五月七日請求原因(三)項の1の代金債権のうち四万六二三八円を支払った。

2、次いで、被告は株式会社村為に対し、昭和三九年九月一日から昭和四〇年五月一三日までの間における取引による商品売掛代金債権合計一二一万六一八九円および昭和四〇年四月五日における同会社の不法行為による損害賠償債権九万六〇〇〇円、合計一三一万二一八九円の債権を取得し、これに対し同会社から昭和四〇年六月二六日までに合計四一万〇八三九円の内入弁済を受け、同日現在において被告の右債権が九〇万一三六〇円残存していたところから、同会社に対し、昭和四〇年七月二日付内容証明郵便をもって、被告の同会社に対する右債権九〇万一三六〇円と同会社の被告に対する前記商品代金債権合計九一万二七七二円とを対等額で相殺する旨の意思表示をし、右意思表示は同月四日頃同会社に到達した。

そこで、右会社の被告に対する代金債権は九四万七五九八円が消滅し、一万一四一二円が残存するのみとなった。

3、従って、かりに、株式会社村為と原告の主張する村為株式会社とが実質上同一人格の会社であったとしても、原告が前記取立命令にもとづき被告に対し取立て得るのは、右残存債権額一万一四一二円に過ぎないものというべきである。

三、右抗弁に対する原告の答弁

(一)  被告主張の株式会社村為に対する反対債権の存在および相殺の意思表示については不知。

(二)  かりに、被告主張の反対債権が存在し、被告主張のとおりの相殺の意思表示がなされたとしても、被告が原告に対し、請求原因(六)項の3に主張したとおりの代金支払いの同意を与えたことは、被告が原告に対して直接前記商品代金の支払債務を負ったことになるというべきであるから、被告の右相殺は無効である。

第三、証拠≪省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫によると、訴外村為株式会社はその代表取締役が木村太一であり、その本店が横浜市西区天神町二丁目四五番地にあったのを昭和三九年六月一五日同市西区永楽町二丁目二六番地に移転し、その旨の登記を経由していること、右会社代表取締役木村は、同日頃以降右本店所在地を営業場所として営業を続けてきたが、右営業に際し右営業場所に「株式会社村為」なる名称の看板をかかげ右会社名で取引をし、昭和四〇年四月頃までの間に村為株式会社なる登記上の名称を使用していなかったこと、しかし、右営業場所を管轄する法務局には「株式会社村為」なる商号で登記されている会社は存在していないこと、原告および被告はそれぞれ村為株式会社なる商号の会社が存していることを知った後も、株式会社村為と同一の会社と信じていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実に、「株式会社村為」と「村為株式会社」とは「株式会社」が商号の冒頭にあるか末尾にあるかの相違に過ぎないものであることを併せ考えると「株式会社村為」は訴外村為株式会社が取引に当り慣用的に用いていた通称であり、別人格のものでないと認めるのが相当である。

二  右認定事実に≪証拠省略≫を綜合すると、原告は「株式会社村為」なる通称名を用いた訴外村為株式会社に対し、昭和三九年六月二四日から昭和四〇年三月一三日までの間に原告製のベッドおよびその付属品を売渡し、その売掛代金一二〇万八一二三円を有していたこと、昭和四〇年四月頃原告は右債権確保の措置を講ずべくその商業登記簿を調べたところ、その営業場所を本店とする右会社の正式の商号が村為株式会社となっているところから、右会社との間で、登記された正式の会社名で債務支払を約して貰うべく、請求原因(二)項記載のような内容の公正証書を作成したものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠がない。

次いで、被告を第三債務者とする原告主張の債権差押および取立命令が、昭和四〇年五月二〇日被告に送達されたことは当事者間に争いがなく、右事実に≪証拠省略≫を綜合すると、請求原因(一)、(三)、(四)項の各事実が認められ、右認定に反する証拠がない。

三  そこで、被告の抗弁について判断する。

≪証拠省略≫によると、被告は「株式会社村為」こと訴外村為株式会社に対し、昭和三九年九月一日から昭和四〇年五月一三日までの間に売渡した商品代金合計一二一万六一八九円および昭和四一年四月五日右訴外会社に商品を不当処分されたことによる損害金九万六〇〇〇円、合計一三一万二一八九円の債権を取得したが、訴外会社から昭和三九年一〇月一七日から昭和四〇年六月二六日までの間に三回にわたり合計四一万〇八二九円の内入弁済を受けたことにより同日現在の訴外会社に対する右債権残額が九〇万一三六〇円となっていたこと、被告は訴外会社に対し、昭和四〇年五月七日前記商品買受代金のうち請求原因(三)項の1の代金の内金として四万六二三八円を支払い(≪証拠省略≫によると、右支払金は原告がこれを代理受領したものであることを認める)、次いで、同年七月二日付内容証明郵便をもって、被告の訴外会社に対する右債権現在額九〇万一三六〇円を自動債権として、訴外会社の被告に対する右商品代金債権九一万二七七〇円と対等額において相殺する旨の意思表示をし、右郵便は同月四日頃同会社に到達したことが認められ、右認定に反する証拠がない。

ところで、原告は、右相殺の意思表示がなされた以前の昭和四〇年五月六日および同年六月三日に、被告が訴外会社から代理受領の委任を受けた原告に対し右商品代金を直接支払う旨同意しているところ、それは、被告が原告に対し右代金債務を負担したものというべきであるから、被告の右会社に対する右相殺の意思表示は無効である旨主張するのであるが、被告が原告に対し右主張のような同意をしたからといって、債権譲渡があった場合と同じように、訴外会社の被告に対する債権が原告に移転し原告がその債権の取得することになるものと解し難いから、原告の右主張は主張自体理由がない。

そうすると、前記支払命令が被告に送達された当時、被告の前記弁済および相殺の意思表示により、既に訴外会社の原告に対する右商品代金のうち九四万七五九八円が消滅し、右取立命令は右債権の残存額一万一四一二円の限度で効力を生じたに過ぎないことが明らかであり、従って、原告は被告に対し、右債権残存額の取立請求をなし得るに過ぎないものというべきである。

四  次いで、原告の予備的請求について判断する。

≪証拠省略≫によると次の事実が認められる。

原告は昭和三九年六月以降「株式会社村為」こと訴外村為株式会社に対し、原告製のベッド等を継続販売してきたが、昭和四〇年に入って訴外会社の経営状態が悪化し、訴外会社に対して有していた一二〇万八一二三円の売掛代金を回収できないところから、同年二、三月以降訴外会社との取引を停止していた。ところが同年四月頃、原告は訴外会社から、被告より原告製ベッドの注文を受けたが、大切な得意先であって面子上断れないので、是非右商品を売渡して貰いたい旨言われ懇請を受けた。原告は右申入れを一旦断ったが、訴外会社から再度懇請されるに及び、原告に転売先である被告からその売渡商品代金を直接代理受領し得る権限を与えることおよび原告が右商品を直接被告に納入することを認めることを条件に、訴外会社に対し右商品を売渡すことを承諾した。そこで、原告は訴外会社から、訴外会社が原告に対し被告に対する売渡商品の納入およびその代金の代理受領を委任する旨記載した委任状の交付を受けた。次いで原告会社横浜営業所長が同年五月六日被告代表取締役に対し、原告が訴外会社に約一二〇万円の売掛代金債権があるがその回収できないため訴外会社との取引を停止していること、および被告が訴外会社に発注した商品については、原告らが直接転売先である被告に納入し、被告がその代金を訴外会社に代わり被告から支払を受けることを条件に訴外会社に売渡すことを承諾したものであることを告げ、その承認を求めた。これに対し被告代表取締役はこれを了承し、右会社から代理受領を委任された原告に対し、被告の注文した請求原因(三)項の1の商品の代金四四万六二三八円のうち四万六二三八円を商品納入と引換えに、残代金四〇万円を同年六月三〇日にいづれも現金をもって原告に支払う旨記載した同意書を原告会社横浜営業所長に交付した。原告は被告が右のように約束したところから代金回収が確実なものと信じ、同年五月七日請求原因(三)項の1の商品を直接被告に納入し、引換えに被告から小切手でその代金の内金四万六二三〇円の支払を受けた。次いで同月一五日訴外会社から再度被告の発注にかかる原告製品(請求原因(三)項の2の商品)の注文を受けたので、同年六月一日原告は被告から、代金の支払日を昭和四〇年七月三一日としたほか前と同趣旨の内容を記載した同意書の交付を受けその旨を約束して貰ったうえ、同年六月三日請求原因(三)項の2の商品を被告に直接納入した。そこで原告は同年六月三〇日の約定期日に、請求原因(三)項の1の残代金四〇万円の支払を求めたところ、被告は、訴外会社に対し有している反対債権と相殺することにしているから支払うことはできない旨言って原告の右支払請求を拒絶し、その後、原告の前記代理受領の目的となった訴外会社に対する債権の回収が事実上不能となることを知りながら、前記認定のとおり訴外会社に対する反対債権をもって相殺し、訴外会社の右売渡代金合計残存債権九一万二七七二円のうち九〇万一三六〇円を消滅させるに至った。

なお、訴外会社はその後間もなく倒産しその代表取締役木村太一もその所在をくらますに至っている。

以上のとおり認定することができ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、原告は、訴外会社に対する請求原因(三)項の商品の売渡代金の回収の確保すなわち右代金債権を担保する目的で、訴外会社から被告に対する右商品の売渡(転売)代金の代理受領の委任を受けたものであるのみならず、被告が約束どおり原告に対し右代理受領の委任のあった代金の支払をしてくれるものと信じて支払不能の状態にある訴外会社に右商品の売渡しをしたものであり、一方被告は、右代理受領の委任が担保の目的でなされたこと、原告の商品売渡先たる訴外会社が支払不能の状態にあること、および原告が被告から、現実に、代理受領委任の目的となっている代金の支払を受けられないのであれば、訴外会社に対し被告の発注した商品の売渡しをしない意向であることを知りながら、原告に対し、右代理受領の委任を承認し、その支払期日を定め原告に直接右代金を支払う旨約束したものであることが明らかである。右事実関係に徴すると、被告は原告に対し、単に原告に代理受領権のあることを承認したにとどまらず、正当の理由のない限り、原告に対して、代理受領委任の目的となっている訴外会社に対する右商品代金を現実に支払提供し、原告の訴外会社に対する商品代金債権の回収に協力すべき義務を負ったものと解すべきであり、そして、右代理受領の目的となっている訴外会社の右代金債権を、被告が原告に対し右義務を負担した当時既に有していた訴外会社に対する反対債権をもって相殺により消滅させることは、右債務不履行を正当ならしめる理由とならないと解するのが相当である。

従って、被告が、前記認定のとおり、原告の訴外会社に対する債権の回収が不能となることを知りながら、右代理受領の目的となっている訴外会社の右商品代金債権を相殺により消滅させ、原告の訴外会社に対する商品代金のうち九〇万一三六〇円の債権回収を不能にしたことは、右義務に違背し故意に原告の債権を侵害した違法なものであるから、被告は原告に対し、右不法行為により原告の蒙った損害(原告が回収不能となった右債権額相当の損害金九〇万一三六〇円)を賠償する責任があるというべきである。

五  以上により、被告は原告に対し、前記取立債務一万一四一〇円およびこれに対する前記取立命令が被告に送達された日の翌日たる昭和四二年五月二一日から完済までの商法所定利率の年六分の割合による遅延損害金、ならびに前記損害金九〇万一三六〇円およびこれに対する前記相殺の効力の生じた日の翌日の昭和四〇年七月五日から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務のあることが明らかである。

よって、原告の主位的請求は右認定の限度において理由があるので認容するがその余を失当として棄却し、予備的請求はその全部が理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条但書、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柿沼久)

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